飲食業界の離職率が高い理由。辞める前に確認するべき4項目とは
飲食業界の離職率は高い、とよく言われます。ただし数字には定義があり、読み方を間違えると判断を誤ります。最新データの中身と、辞めるか残るかを決める前に見ておきたい基準を整理しました。
結論:高いのは事実。ただし「辞めやすい」とは別の話です
厚生労働省の「令和7年雇用動向調査結果の概況」によると、宿泊業・飲食サービス業の離職率は23.7%です。全産業計の離職率13.7%と比べると、およそ1.7倍という水準になります。同じ調査で入職率は27.8%と離職率を上回っており、人が辞める以上に入ってきている産業だということも分かります。
この数字を見て「人が定着しない業界だ」と結論づけるのは早すぎます。離職率が高いことは、裏を返せば移動が妨げられていないということであり、経験を積んだ人が条件の良い場所へ移りやすい市場でもあります。
問題は業界の性格ではなく、自分が今いる店で何が起きているかです。
POINT
- 飲食業界は人材の流動性が高い
数字を正しく読むための3つの前提
まず、離職率は「一定期間に辞めた人の割合」であり、その定義は調査によって異なります。常用労働者を分母にするのか、一般労働者とパートタイムを分けるのか、上半期だけを見るのか通年で見るのか。同じ「飲食業の離職率」でも、26%台の数字と23%台の数字が併存するのは、対象と期間が違うからです。
次に、一般労働者とパートタイム労働者では水準が違います。令和7年の宿泊業・飲食サービス業は、一般労働者の離職率が21.5%、パートタイム労働者が25.0%です。正社員か否かで課題の中身が変わるため、自分に関係する数字を選んで読む必要があります。
そして、離職率の高さは業績の悪さを意味しません。外食は出店と閉店の回転が速く、業態の切り替えも多い産業です。店舗の閉鎖に伴う離職と、個人の意思による離職は、同じ「離職」に含まれます。
料理人が辞める理由は、給与より前にあります
離職理由として必ず挙がるのが労働時間と給与です。ただ、現場で話を聞くと、辞める決断の直前にあるのは「成長が止まった感覚」であることが少なくありません。
新しいポジションを任されない、師匠から技術の説明がない、献立に関われない。この状態が半年続くと、人は条件ではなく意味を失って辞めます。
- 労働時間:営業終了後の片付けと仕込みが長く、実質拘束が10時間を超える店は依然として多い。
- 休日の取りにくさ:連休が取りづらい、希望休が通らない。生活設計が立てられないことが離職の引き金になります。
- 評価の不透明さ:昇給の基準が示されず、頑張りが給与に反映されない。
- 人間関係:叱責が指導の形をとっている環境では、技術より先に心が折れます。
- キャリアの見えなさ:この先5年で自分がどうなるのか、店の中で像を結べない。
「3年で7割が辞める」といった数字の扱いに注意
ネット上には、出典の明確でない離職率や定着率の数字が数多く出回っています。調査年、対象、定義が示されていない数字は、判断の材料にしないほうが安全です。参照するなら、厚生労働省の雇用動向調査のように、調査主体と定義が公開されている一次情報を選んでください。
また、新卒の離職率と中途の離職率は別の指标です。20代前半の離職と、30代で技術を固めた人の離職では、意味も対策もまったく違います。
辞めるか残るかを決める4つの問い
判断の前に感情だけで決めると、次の店で同じ壁に当たります。環境の問題か、自分の課題かを切り分けてから動きましょう。
- 包丁を握る時間は、去年より増えているか。増えていないなら、環境の問題である可能性が高いです。
- 師匠や料理長は、技術の理由を言葉で説明してくれるか。説明がない環境では、独学の限界が早く来ます。
- 給与と休日は、同業の相場と比べて妥当か。相場を知らないまま不満を抱えるのは、判断を誤らせます。
- 3年後、この店で就けるポジションは具体的にイメージできるか。できないなら、キャリアの設計は外に置くべきです。
離職率の低い店に共通する3つの習慣
離職率の低い店は、特別な福利厚生があるわけではありません。共通しているのは、仕事の設計が丁寧だということです。休みの計画が半年先まで見えている、繁忙期の人員が事前に足されている、そして技術の習得段階が明示されている。この3つが揃うと、人は辞めません。
加えて、辞めた人との関係を切らない店は強いです。戻ってくる人、紹介してくれる人がいる店は、採用にかかるコストも下がります。
辞めた後の選択肢は、以前より広がっています
料理人の転職先は、飲食店だけではありません。ホテル、リゾート、給食、福祉施設、食品メーカーの商品開発、料理教室、宅配やケータリング、そして海外。調理の技術を持ったまま働く場所は増えています。
独立も、店舗を持たないゴーストキッチンや出張料理という形なら、リスクを抑えて始められます。
大切なのは、辞める前に「次に何を試すか」を決めておくことです。勢いで辞めると、選べる求人が減り、条件で妥協することになります。在職中に情報を集め、相場を知り、面談を一度受けておく。それだけで、次の3年の質は変わります。
それでも、離職率は動いています
同じ調査で前年を見ると、宿泊業・飲食サービス業の離職率は25.1%でした。令和7年は23.7%ですから、1.4ポイント下がっています。入職率も27.8%と離職率を上回り、人が辞める以上に入ってくる状態が続いています。
背景には、働き方の見直しが進んだことがあります。営業時間の短縮、完全週休二日制の導入、調理の分業化による負担の平準化。すべての店で進んでいるわけではありませんが、条件の良い店と悪い店の差は、以前よりはっきり数字に出るようになりました。
つまり、離職率の高さは「業界全体の性質」であると同時に、「店ごとの差」でもあります。自分がどちらにいるのかを見極めることが、実務的な意味では最も重要です。求人票の条件と、現場の実態が一致しているかどうかは、面談のときに必ず確認してください。
年齢によって、課題は変わります
20代の離職は、技術の習得と人間関係が中心です。この時期に辞める理由の多くは、包丁を握る時間が増えないこと、指導が怒鳴る形になっていること。環境を変えることで解決する問題が大半です。
30代の離職は、生活とキャリアの両立が焦点になります。結婚、出産、介護。休日と勤務時間の柔軟性がない店では、どれだけ技術があっても続けられません。
40代以降は、役割の変化が課題です。現場の最前線から、後進の育成や店舗運営へ。この移行が用意されていない店では、体力の低下とともに居場所がなくなります。逆に言えば、移行の道筋を示せる店は、長く働ける店です。
辞める前にやっておくこと
退職を伝える前に、次の3つを済ませておくと、その後の選択肢が狭まりません。一つ目は、自分の実績の棚卸しです。担当した持ち場、さばいた人数、開発したメニュー、後輩の指導。数字と具体例で書き出します。
二つ目は、在職中の面談です。求人を見るだけでも市場は分かりますが、一度話を聞くと、自分の経験がどう評価されるかが具体的に見えます。三つ目は、生活費の計算です。次の給与が決まるまでの期間を、貯金でまかなえるかを確認しておきます。
辞める理由を「人間関係」とだけ語る人は、面接で評価されにくくなります。何を実現したくて環境を変えるのかを、前向きな言葉に置き換えておくことが、次の職場でのスタートを決めます。
業界の数字は動きますが、自分の環境は自分で選ばない限り変わりません。数字を知ることは、不安を増やすためではなく、次の一手を具体化するためにあります。まずは自分の店の離職と採用の実態を、当事者として観察してみてください。そこに、業界平均より役に立つ情報があります。
辞める前に、外の相場を見ておく
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