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独立を目指す

「資金も体力も気持ちにも余白を」蒲田で一人で店を始めた料理人が伝えたいこと

26歳で渋谷にカフェを構えてから、綱島、中野と複数の場所で店を持ち続けてきた菊島圭太さん。2023年に蒲田で立ち飲み屋「mum stand」を一人で開業。調理師学校には行かず、組織にも依らず、自分のペースで場所をつくってきた料理人が語るのは、店を始め、続けていくためのリアルな経験。

【シェフプロフィール】菊島 圭太 シェフ
東京都小平市出身。アジア料理や和食居酒屋などで経験を積み、26歳の時に渋谷で自身の店をオープン。その後4店舗を立ち上げ、もつ鍋、天ぷら、肉パル、精肉の仕事などを経て「mum stand」をオープン。

<店舗情報>

  • mum stand
  • OPEN 19:00〜
  • 不定休
  • 蒲田5-19-15 蒲田東口中央ビル1F
  • 080-1253-7296

この記事のポイント

POINT

  • 飲食店の保証金は家賃10ヶ月分が目安。物件取得だけで初期費用が140万円超になるケースも。内装費・設備費は別途かかる。
  • スポットワークを並行しながら開業することで収入を安定させ、立ち上げ期の精神的な余裕を確保できる。
  • 立地はあとから変えられない。物件選びに妥協せず、資金も体力も気持ちにも余白を残すことが、店を続けるための鍵になる。

140万超の初期費用。自己資金で始める理由

──蒲田にお店を出そうと決めた理由を教えてください。

直感が大きかったと思います。ネットで居抜き物件の情報を見て、気になって見に来たんです。来てみたら、なんかアジアの街角みたいな雰囲気があって、「あ、ここでやりたいな」と思いました。

蒲田にはそれまでほとんど縁がなかったんですが、繁華性があって一見さんも来やすい場所だというのも、以前の経験から重視していたポイントでした。以前、中野でお店をやったことがあるんですが、そこは住宅街で、始めるコストは低かったものの、人を呼ぶのがとにかく大変でした。

だから次にやるなら、人が動く街のどこかで、という気持ちがあり、蒲田は、そういう意味でも合っていました。

──開業前に、いちばん大変だったことは何でしょうか。

物件取得のタイミングで、まとまった資金が必要になることです。飲食店の保証金は、事務所に比べると高くて、家賃の10ヶ月分くらいかかることも珍しくありません。

なぜ10ヶ月分かというと、仮にテナントが家賃を払えなくなって出ていくとなった場合、オーナーさんがスケルトン状態(床・壁・天井が剥き出しで設備もない状態)に戻す費用が必要になります。その担保として、保証金が高く設定されているんです。

今回も、前賃料・礼金・保証金・仲介手数料・保証会社費用などを合わせると、開業前の段階で総額140万円以上が必要でした。内装費や設備費はその別になりますし、今回の内装工事だけでもおよそ200万円かかっています。さらに前テナントの残置物の撤去や、冷蔵庫の搬入なども必要でした。

お店をつくるのは、工事だけでは終わらない。そのことは、特に初めて開業する方には早めに意識しておいてほしいです。

菊島シェフ

──自己資金で開業されたそうですが、その判断の背景には何がありましたか。

借り入れが悪いというわけではないんです。ただ、もしうまくいかなかったときのダメージが、借り入れが大きいほど精神的にも重くなります。

最初に渋谷でお店を始めたときは26歳で、若かったから勢いで行けましたが、その後の経験を重ねるうちに、飲食ってお店を始めるにもお金がかかって、辞めるときにもお金がかかる商売なんだということを実感するようになりました。

だから今回は、できるだけ自己資金の範囲で、なおかつ運転資金をきちんと手元に残した状態で始めることを意識しました。全部をお店に突っ込まないことが、心の余裕につながると思っています。

もし借り入れをするとしても、すべてを店に使い切るのではなく、余白を残すことが大事だと、人に聞かれたときも同じことを言います。

収入の複線化が、心の余裕をつくる

──独立後も、スポットワークを続けている理由を聞かせてください。

もともと、お店を持つ前からスポットワークをしていて、続けながらお店を持つということは最初から決めていたんです。

収入の柱がひとつだけだと、店の状況がそのまま気持ちに直結してしまいますよね。立ち上げ期はとくに、売上が安定するまで時間がかかります。その間もスポットワークがあると、収入面でも精神面でも、気持ちが少し楽になります。

それと、外に出ると違うジャンルの店を見られますし、いろんな人との出会いもあります。自分の店だけにいると、どうしてもルーティンになりやすくて。同じメニュー、同じ動き、同じ場所。それが悪いわけではないんですが、外での仕事が視野を保つ役割を果たしてくれていると感じています。

これから独立を考えている方にも、スポットワークを続けながら開業するというのは、現実的な選択肢としておすすめしたいです。

──独立して、想定外だったことはありましたか?

意外と、想定に近かったんですよね(笑)。最初に来たときに感じた雰囲気とか、客層のイメージとか、わりと合っていました。自分でデザインの方向性を決めて内装を業者さんにお任せしたんですが、できあがりも「こういう感じにしたかった」というイメージに近くて。強いて言えば、電気の容量が低くて、電子レンジと他のものを同時に使うとブレーカーが落ちることでしょうか(笑)。

しかも隣のお焼肉屋さんのところにブレーカーのボックスがあって、落ちたときはそちらに頼みに行かないといけない。まあ仲良くやっているので大きな問題ではないんですが、最初は驚きました。居抜き物件は何かしらそういうことがあるので、内見のときに設備関係をしっかり確認しておくのは大事だと思います。

菊島シェフ

共同経営を経て、一人で立つことを選んだ理由

──以前、共同経営をされていたこともあると伺いました。今回、一人でやることにした理由はありますか。

渋谷のお店を最初に始めたときが共同経営だったんですが、意思決定の難しさを痛感しました。

自分はこうしたい、相手はこうしたい、という場面が積み重なってくると、両方がストレスを抱えやすくなるんです。

たとえば、お店が暇な時間にどう動くかひとつとっても、自分は外に出て新しいつながりをつくりに行こうと思っているのに、相手はお店にいるべきだという考え方だったりして。どちらが正しいという話ではないんですが、そういうことが積み重なると、だんだん気持ちが重くなっていって。

仲のいい友人と始めると最初は心強いですが、うまくいかない時期がいちばんしんどくなることもあります。一人でやることの不安はもちろんありますが、自分の判断で動けることの簡単さというか、そちらを選ぼうと今は思っています。

綱島、中野、そして蒲田へ。「mum stand」が生まれるまで

──「mum stand」の開業に至る経緯を教えてください

自分が初めてお店を持ったのは26歳のとき。渋谷で共同経営のカフェを始めて、10年以上続けました。その後、綱島で一年ほどお店をやって、仲間と一緒に中野でも店をやって、会社員として働いた時期もありました。

コロナ禍で中野の店を手放してから、しばらくはスポットシェフとして複数の現場を掛け持ちしながら働いていました。「もう一度、自分の店を持とう」という強い決意があったわけじゃなくて、「いい場所があれば」くらいの感覚でいたんです。

昔登録したままの居抜き物件サイトから案内が届いて、なんとなく見に来た蒲田で、直感が動きました。2023年12月に、ここで「mum stand」を開業しました。

国籍も年齢も関係なく、いろんな人が集まれる場所に

──お店のコンセプトを教えてください。

店名の「mum stand」は、弟が実家で営んでいる整体院の名前からとりました。

国籍も年齢も関係なく、いろんな人が集まれる場所にしたいというのが根本にあります。もともとバックパッカーをしていたことがあって、旅先でいろんな国の人と出会って、価値観がそれぞれ違って、だからこそ面白い、という経験が自分の中に残っていて。

そういう感覚が、場づくりへの興味につながっているのかもしれません。蒲田らしい立ち飲みにはしたかったんですが、いわゆる「ザ・蒲田の居酒屋」みたいにはしたくなかった。かといって、人を選ぶような感じにもしたくなかった。

チャージもとっていないですし、気軽に入れる雰囲気を大事にしています。気づいたら「ここに来ると誰かに会える」という感じになってきたのは、うれしいことです。

フランス人の方が来てくれたり、イギリスのバンドの方がギターを弾いてくれたり、そういう偶発的な瞬間が好きです。

菊島シェフ

──開業から現在まで、変化を感じることはありますか。

常連さんが増えてきたことですね。最初は一回来てくれても次につながらないことも多かったんですが、少しずつリピートしてくれる人が増えてきました。開業当初は12月の寒い時期で、外が開いていても人が入りにくくて。

スポットワークに行った先でお店の宣伝をしたり、街で声をかけたり、地道なことからやっていました。ようやく常連さん同士が店で知り合って仲良くなって、またそこに誰かを連れてくる、という流れが出てきた感じがしています。

「行けば誰かいる」という空気ができてきたのが、いちばんよかったです。売上でいえば、スポットワークと合わせると開業当初から黒字ではあったんですが、お店単体でも徐々にプラスの日が増えてきました。

──独立を目指すシェフに、伝えたいことはありますか。

物件選びに手を抜かないでほしいです。

料理や接客は開業後にも磨いていけますが、立地はあとから変えにくい。自分が気に入った場所で始めることが大事で、妥協した物件で始めると、うまくいかないときに「場所のせいかな」という言い訳が出てきてしまいます。

それが積み重なると、続けるモチベーションにも影響します。自分なりの条件をいくつか持っておいて、その条件に合う物件を根気強く探すことが大切です。

そして、無理をしすぎないこと。資金も体力も気持ちにも、余白を残しておくことが、長く続けるための条件だと思っています。

全力でぶつかることは大事ですが、全部を注ぎ込んでしまうと、何かあったときの立て直しが難しくなります。独立は、始めることではなく、続けることが本番です。そのことを、一番最初に知っておいてほしいな、と思います。

執筆 Dining Trends編集部

料理人の毎日に効く知識と、次の一歩を後押しするコンテンツを届ける編集チームです。調理道具のリアルなレビュー、厨房で役立つ技術や用語、海外挑戦や独立のヒントまで、現場目線でわかりやすく執筆。プロにも料理好きにもわかりやすい記事づくりを大切にしています。

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